人気ブログランキング | 話題のタグを見る

教会を悩ますゲイ聖職者の「乱れた性」

ニューズウィーク日本版 10月4日(月)17時6分配信

 ローマ中心部のレストラン「レ・マーニ・イン・パスタ」。若いカップルがテーブルを挟んで見詰め合っている。手を握ったり口づけを交わしたりするわけではないが、明らかに単なる友人同士ではない。ただし、気になる点が1つある。服装は2人とも白いカラーに灰色のシャツ----カトリックの聖職者の証しだ。

 カトリック教会は同性愛を自然に反する罪深い行為としている。とはいえ、男性同士で愛をささやき合うゲイ聖職者の存在はローマでは公然の秘密であり、多くの市民が見て見ぬふりをしてきた。だが先ごろ、イタリアの週刊誌パノラマがショッキングな暴露記事を掲載すると、状況は一変した。

 ジャーナリストのカルメロ・アッバーテは、ゲイ聖職者グループに属するある人物の「パートナー」に成り済まし、ローマの聖職者3人の「秘め事」を20日間にわたりビデオにこっそり録画した。

 ビデオに映っていた司祭たちは秘密パーティーでセクシーなダンスを踊り、教会の敷地内で「男性コンパニオン」と性的行為に及んだ。ミサの時間ぎりぎりに暗いベッドルームから出てくる司祭たちの姿を捉えた動画もあった。「問題は同性愛ではない」と、アッバーテは本誌に語った。「建前の美徳と私生活レベルでの悪徳、そして教会の深刻な偽善だ」

 この暴露記事はローマのカトリック関係者に大きな波紋を巻き起こした。ただし同じ性的スキャンダルでも、世界中で明らかになっている聖職者による児童への性的虐待とは大きく違う。ゲイ聖職者は禁欲、教会法、偽善に関わる問題だし、小児性愛は児童虐待、権力乱用に関わる問題だ。

 ローマでは聖職者の大半がバチカン(ローマ法王庁)と何らかのつながりを持っている。アッバーテによれば、ビデオに映っていた司祭の1人はサンピエトロ大聖堂でミサを執り行っていたという。

問題は教会の秘密主義

 ローマ教区のアゴスティーノ・バリーニ枢機卿は声明でこう述べた。聖職者で同性愛者という「『二重生活』を送る司祭たちは自らの務めを理解していない。彼らは司祭になるべきではなかった」

 今年4月、法王庁のナンバー2に当たるタルチージオ・ベルトーネ枢機卿は訪問先のチリで会見を行い、性的虐待問題と絡めてゲイ聖職者を非難した。「多くの心理学者と精神科医によれば、禁欲と小児性愛は無関係だが、同性愛と小児性愛の関係を示唆する研究は少なくない。だから問題なのだ」

 まるで小児性愛のような「性的逸脱」よりも同性愛などの「性的志向」を問題視しているかのようだ。性的虐待の被害者をサポートする活動家はこうした傾向を批判する。教会は児童への性的虐待の噂があっても事実を隠蔽するのに、ゲイ聖職者に対してはすぐに聖職からの追放を口にする、と。

 レ・マーニ・イン・パスタからそう遠くないトラステベレ地区にある国際神学校には、世界中から入学希望の若者が集まってくる。この学校のある教授によると、彼らの圧倒的多数は性的に活発なゲイたちで、活力あふれるローマのゲイ文化にすぐなじむという。

 世界中にゲイ聖職者が何人いるのか、正確な数は分からない。00年の研究では、アメリカのカトリック司祭の最大60%は同性愛者だとされている。アッバーテによれば、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)でゲイであることを公言している司祭も少なくない。また取材の結果、聖職者は男性コンパニオンやバイセクシュアルの男娼の大切なお得意さまであることも分かったという。

 法王ベネディクト16世は現在、ローマ郊外のカステル・ガンドルフォにある夏季の別荘に滞在中だ。法王庁は当面ゲイ聖職者の件については沈黙を守り、ローマ教区に対応を任せている。

 だが禁欲の誓いを破った司祭を教会から追放しても、おそらく問題は解決しないと、アメリカで人気のカトリック系ブログに執筆している宗教評論家のブライアン・コーンズは指摘する。

「真の問題は教会の秘密主義だ」と、コーンズは言う。「ゲイ聖職者は自ら名乗り出てもらいたいという意見には賛成する。だが今の教会指導部は、そうした正直さを許容するような開放的で安全な環境をつくろうとしていない」

[ニューズウィーク日本版2010年8月11日号掲載]

by yupukeccha | 2010-10-04 17:06 | ヨーロッパ  

<< 龍馬にしがみつくのは成熟拒否の表れ 耐性菌、渡り鳥が運び屋? ポル... >>