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悲願の国産ジェット生産開始 低燃費武器に脱「下請け」

2010年10月1日1時59分 朝日新聞

悲願の国産ジェット生産開始 低燃費武器に脱「下請け」_b0161323_19392015.jpg 初の国産小型ジェット旅客機「ミツビシ・リージョナル・ジェット(MRJ)」の生産が30日に始まった。1974年に生産中止となったプロペラ旅客機YS11以来の国産旅客機事業。次世代産業としての育成や、国内製造業の技術力アップを狙って国も支援する。低燃費や快適性を武器に世界の航空会社に売り込みをはかる。

 「日本の航空機産業の夢を乗せて、MRJを大いに羽ばたかせたい」。30日午前、MRJの製造を担う三菱重工業大江工場(名古屋市港区)で開かれた製造開始の記念式典。開発を担当する三菱航空機の江川豪雄(ひでお)社長は、力強く宣言した。

 国産ジェット旅客機の生産は日本の航空機産業の悲願だった。1960~70年代、国や三菱重工などがつくったYS11は販売が伸びず、赤字が膨らんで撤退。その後、日本の航空機メーカーは、米ボーイング社や仏エアバス社の「下請け」に甘んじてきた。だが、下請けは利幅が薄く、中国など新興国企業との受注合戦も激しい。生き残りを懸け、旅客機製造に再挑戦する。

 三菱重工が目をつけたのが、100席以下の小型ジェット旅客機(リージョナルジェット)。大都市の拠点空港と地方空港間や、地方空港同士を結ぶ中・近距離向けの機体として、今後20年で5千機近い需要があるとみる。MRJはうち1千機の受注を目指す。1号機は12年春の完成見込み。14年に全日本空輸へ納入される予定だ。

 MRJの最大の特徴は燃費の良さだ。燃費効率の高い米国製エンジンを採用し、最先端の炭素繊維複合材を機体の一部に使って軽量化。ライバル社の同型機と比べて燃費を20~30%向上させた。飛行機を1機飛ばすのに必要なコストの約4割は燃料費とされ、江川社長は「MRJの採用が、航空会社の競争力アップにつながる」と自信を見せる。

 機内の快適性も追求。座席上の荷物入れを大きくし、疲れにくい座席も導入。価格も1機30億~40億円に抑えた。

 機体設計は戦前に「零戦」が開発された大江工場で行われ、組み立てはYS11を生産した小牧南工場(愛知県豊山町)で行われる。「ベストセラーをつくり、世界を席巻したい」(江川社長)。世紀をまたいだ「再挑戦」に、関係者の夢は膨らむ。

 政府は、航空機産業を次代の成長産業の一つと位置づけ、関連産業の国内売上高を現在の約1兆円から20年後に3兆円に伸ばす目標を掲げる。その牽引(けんいん)役と期待されるMRJの開発費は1800億円。うち約500億円を国が支援する方向だ。トヨタ自動車や三井物産、住友商事なども三菱航空機に出資して「日の丸ジェット」を支える。

 最先端技術の塊である航空機の生産は、国内の部品・素材メーカーの技術力を伸ばし、関連産業を育てる波及効果も見込める。経済産業省は「MRJの生産を通して、日本の航空機産業のレベルは飛躍的に上がる」と期待する。


■寡占市場 崩せるか

 だが、競争環境は厳しい。100席以下のジェット旅客機の市場は、ボンバルディア社(カナダ)とエンブラエル社(ブラジル)による寡占が進む。中国やロシアの航空機メーカーも、国内需要の拡大を見据えて開発に乗り出し、すでにテスト飛行の段階に入っている。MRJの出遅れ感は否めず、「今回はラストチャンス」と危機感もにじむ。

 MRJは昨年までに、全日空と米国の地域航空会社から計125機を受注済みだが、採算ラインとされる350機には遠い。当面は実機がない中での営業を強いられる。7月に英国であった大型見本市「ファンボロー国際航空ショー」でも受注はゼロだった。

 過去の購入実績を重視する航空会社が多いことも、後発のMRJには「逆風」だ。競合他社も、MRJと同じメーカーからエンジンの供給を受ける検討をしており、差別化が難しくなる可能性もある。

 三菱航空機は米国に次ぐ営業拠点を年内に欧州に設ける計画だが、それでも、世界を飛び回る営業部隊は50人余り。修理部品の供給などのサービス網の構築も、今後の課題となる。

 航空機の製造・販売は息の長いビジネスだ。黒字化には初号機の納入から10年程度はかかりそうだ。MRJの製造部門を統括する三菱重工の後藤純一郎さんは、「ただ飛行機を飛ばすだけではダメ。利益が出なければ、事業の継続が難しくなる。徹底したコスト削減を進め、競争を勝ち抜きたい」と意気込む。(伊沢友之、木村裕明、金井和之)

by yupukeccha | 2010-10-01 01:59 | 経済・企業  

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