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口蹄疫 脅威の感染力 風に乗って250㌔ 黄砂にも付着?

2010年5月28日 朝日新聞

10年ぶりに国内で確認された口蹄疫(こう・てい・えき)。感染が拡大した宮崎県内では、約15万頭の牛や豚などが殺処分の対象となった。さらなる拡大を食い止めるため、国は初めてワクチン接種に踏み切った。ここまで警戒するのは、口蹄疫のウイルスの感染力が強く、複数の感染ルートが考えられることが背景にある。

60カ国以上で発生

白い消石灰が地面にまかれた牛や豚の畜舎。近くを通る車には消毒液がかけられる。白い防護服を来た獣医師らが農場に入り、ワクチンを打ってまわる。口蹄疫が発生した宮崎県内では、物々しい光景が広がる。「口蹄疫ウイルスは感染力が強い上、すぐ変異して耐性ができる。最も恐れられている家畜伝染病の一つだ」(京都産業大の大槻公一鳥インフルエンザ研究センター長)

主に牛や豚、羊、ヤギ、鹿などの「偶蹄(ぐう・てい)類」に感染する。家畜の致死率は1~5%で、若い牛や豚では2割程度。しかし、口やひづめなどに水疱(すい・ほう)ができ、えさが食べられなくなり、肉質が落ち、出荷が難しくなってしまう。

2008~10年に国際獣疫事務局(OIE)に発生を報告した国・地域は60以上。アジアでは今年1月に韓国や中国(北京市、新疆ウイグル自治区)を皮切りに、2月以降に香港と台湾、中国(広東省など7地域)でも確認された。

ウイルスはA型やC型など7種類に分けられる。ただ、変異しやすいため、さらに細かく「インドネシア1」など地域ごと分類される。宮崎のウイルスは、遺伝子検査でO型と判明。中国や韓国で発生したO型のウイルスの遺伝子と約99%、一致した。

今回、国は初めてワクチン接種に踏み切った。死んだウイルスを使った不活化ワクチンで、欧州からすべて輸入した。感染力が強く、高性能の排気設備が完備された特殊な施設でないと、ウイルスは扱えない。こうした施設がない日本では製造できない。

ただ、ワクチンは変異したウイルスの型に完全に一致したものを使わないと、十分な効果が出ない。今回は、あらかじめ備蓄していたO型対応のワクチンが使われた。大槻センター長は「完全に効くワクチンを待つと1カ月はかかる。効果を度外視して、少しでもウイルスを抑えることが先決だ」と話す。

口蹄疫は早期発見が難しいのも特徴だ。牛や豚にできる水疱は診断の手がかりになるが、同じような症状は、ブルータング病や水胞性口炎など他の病気でもみられる。しかも、水疱は表面が薄い膜のため、よくやぶれ、気付きにくいという。

帝京科学大の村上洋介教授(ウイルス学)は「症状が似た病気も非常に珍しく、獣医師の診断経験が乏しい。水疱があったからといって正確に口蹄疫と診断するのは、ベテランの獣医師でも難しい」と話す。

えさ・くつ…経路不明

やっかいなことに、感染する動物も多い。米農務省の報告書によると、牛や豚、羊、ヤギなどの家畜に加え、シカ、カモシカ、イノシシなど99種の生物が感染源になりうるという。そのうち、カンガルーやハリネズミなど40種で発症が確認されている。イエバエやダニもそれぞれ10週、15~20週にわたりウイルスを運んだというデータもある。

心配される感染ルートは複数ある。気象条件が適していれば、風に乗って陸上で60キロ、海上で250キロも移動するといわれる。欧州では海を越えて、フランスから英国に、デンマークからスウェーデンに飛んだ記録もある。

もっと長距離を移動する可能性を示す調査結果もある。筑波大や九州大、琉球大などのグループは09年、茨城県と福岡県、沖縄県で採取した黄砂に付着していた遺伝子が、口蹄疫ウイルスの可能性があると学会誌に発表した。調査にあたった礒田博子筑波大教授(環境安全評価学)は「中国、韓国、日本での口蹄疫の発生に黄砂がかかわっているとなると、予防も難しく、国際的に取り組む必要が出てくる」と話す。

家畜のえさやワラ、人の往来がかかわっている疑いが濃い。こう指摘するのは、向本雅郁大阪府立大准教授(獣医感染症学)だ。ウイルスは服や靴に付着した状態で夏でも9週間、人ののどでも2週間は生存できるという。

向本准教授は「空港にマットを置いて靴底を消毒するなどの対策はすぐにできるはず。あとは発生国でむやみに牛や豚にふれないよう、出入国者に呼びかけていくしかない」と話している。
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by yupukeccha | 2010-05-28 23:59 | 社会  

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