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マリフアナ合法化の損得勘定

5月10日 12時49分配信 ニューズウィーク日本版

カリフォルニア州が大麻合法化を目指している。州財政が改善するとの期待もあるが……

ジェシカ・ベネット

 カリフォルニア州オークランドの中心部の一角に、住民が「オークステルダム」と呼ぶ地区がある。

 マリフアナ(乾燥大麻)の個人使用などが訴追されないオランダのアムステルダムをもじって付けられた名前だ。寂れた地域にひっそりと存在するその「マリフアナ解禁区」では、外の世界より時間が少しだけゆっくりと流れる。

 カリフォルニア州では医療目的に限ってマリフアナ使用が合法化されており、実際にオークランドなど多くの地域で使用が許されている。オークステルダムのコーヒー店「ブルースカイ」でコーヒーを頼むと20分は待たされるが、マリフアナなら5分で手に入る。

 別の店に入れば、それほど人目をはばかるふうでもない裏部屋にマリフアナの煙が濃く立ち込めて、ピンク・フロイドのアルバム『狂気』の曲が流れている。

 ひときわ異彩を放っているのがオークステルダム大学。リチャード・リー(47)が運営する「マリフアナ専門学校」だ。マリフアナ合法化運動の中心的存在である彼は、オークランドの中心部に「マリフアナ産業」という有望なビジネスを誘致した。

 リーはカリフォルニア州でマリフアナの使用合法化に関する住民投票を行うよう、先頭に立って求めてきた。その努力のかいあって先日、11月に住民投票が実施されることが決まった。

 リーはオークランドだけでなく州内の別の地域でも、マリフアナ合法化運動が盛んになることを望んでいる。

 住民投票でリーたちの運動が勝利すれば、カリフォルニアはマリフアナが合法化される全米初の州になる。そうなれば、21歳以上なら約28グラムまでは栽培と所持が認められるようになるだろう。

 地方自治体にはマリフアナ取引の規制や課税の権限が与えられる。数百億ドルの赤字を抱えるカリフォルニア州のアーノルド・シュワルツェネッガー知事も合法化に関する「議論」を歓迎している。

■医療用は「野放し」状態

「合法化に目くじらを立てる人はもういない」とウィリー・ブラウン前サンフランシスコ市長は最近、新聞への寄稿記事で述べた。「(合法化されれば)大麻栽培者とそれに課税する自治体に利益が転がり込むだろう」

 ハーバード大学の経済学者ジェフリー・ミロンの試算によると、国が大麻取り締まりに要する費用は年間130億ドル。逸失税収は70億ドルに上るという。

 今年オークランドでは全米で初めて特別大麻物品税を施行。売り上げ1000ドルごとに18ドルを徴収する。これによる今年の税収は最高100万ドルと市は見込んでいる。

 州レベルで合法化されれば、もっと大規模な効果が期待できるとリーは言う。「オークランドでは実際、雇用が生まれ、街に活気が戻っている」

 カリフォルニア州では96年に医療用マリフアナが合法化された。だがこの「医療」が曲者だ。18歳以上の人が不安障害などの理由で医師から許可をもらえば、簡単にマリフアナを入手できる。「医者から許可をもらうのは難しくない」と、マリフアナを扱う店で働く従業員は本誌に語る。

 連邦法ではマリフアナの栽培と所持は違法だ。米国医師会の反対にもかかわらず37年に禁止された。

 エリック・ホルダー司法長官は昨年2月、司法省は州法によって認可された医療用マリフアナの販売店を今後は強制捜査しないと発表。反対派を呆然とさせた。

 一方、ホワイトハウスの麻薬管理政策局のリチャード・ギル・カーリカウスキー局長は今月初め、サンノゼの警察署長らへの訓示の中で合法化に反対だと発言した。

 とはいえカーリカウスキーには麻薬関係の法律の施行についての権限はない。専門家によれば、連邦政府にはカリフォルニア州法の範囲内での住民の活動を捜査する人的・資金的余裕はないし、そんな気もないというのが実情らしい。

 約28グラム以下のマリフアナを所持していた場合、連邦法では1年以下の懲役と1000ドルの罰金が科されるが、カリフォルニア州法では罰金はわずか100ドルだ。

「州法に従っている限り、司法省は介入しないと語っている」とマリフアナ合法化ロビー団体NORMLのポール・アーメンタノは言う。「これは医療用マリフアナについての発言だが、嗜好品としてのマリフアナの場合は対応が異なると考える理由はない」

■安全な薬物とは言えない

 マリフアナ合法化に対する反対理由はいくらでも思い付く。マリフアナ使用を美化しかねない、より強力な薬物使用につながる、乱用に通じる......。健康への害は、ヘロインやコカインはもちろん、アルコールと比べても軽いと言われている。

 しかしマリフアナが安全な薬物と考えるのは誤りだ。マリフアナ常用者は自動車事故を起こしやすいし、呼吸器の損傷や胎児への悪影響を引き起こす恐れもある。

 米国立薬害研究所のノラ・ボルコウ所長によると近年、薬物の強さは高まっており、依存リスクが増大していると、多くの専門家はみているという。

「祖父の時代より明らかに強くなっている」とカリフォルニア大学ロサンゼルス校の麻薬政策専門家マーク・クライマンは言う。

 カリフォルニア州司法長官で州知事選への立候補を表明しているジェリー・ブラウンや、サンフランシスコの地方検事でブラウンの後釜を狙うカマラ・ハリスなど、マリフアナ合法化反対派は闘志満々だ。

 合法化推進派のリーは、オークステルダムでの事業で得た資金から100万ドルを合法化運動に投じると宣言。クリントン政権の元参謀クリストファー・レヘインらの力を借りて強力な組織を結成している。

 さらには投資家で富豪のジョージ・ソロスや、アパレルチェーンのメンズ・ウエアハウスのジョージ・ジマーCEO(最高経営責任者)に助力を仰ぐかもしれない。彼らは過去にも薬物規制の緩和を求める動きに資金を提供したことがある。

 カリフォルニア州がマリフアナ合法化について住民投票を行うのは、この40年近くで2度目になる。最初は72年の「提案19号」だった。これは否決されたが、当時とは法規制も文化も一変した。

 現在、医療用マリフアナを合法化している州の数は13に上る。オークランドやシアトルなど多くの市の司法当局は、成人のマリフアナ使用取り締まりの優先順位を最下位と定めている。

 ABCテレビとワシントン・ポスト紙が共同で行った調査によれば、マリフアナ合法化を支持するアメリカ人の割合は97年には22%だったが、今では46%に増加した。フィールド・リサーチ社の調査によると、カリフォルニア州民の56%がマリフアナの合法化と課税に賛成しているという。

 3月にNORMLは全米で広告キャンペーンを開始。ニューヨークのタイムズスクエアにも「カネは木になる!」というNORMLの広告メッセージが登場した。

 オバマ大統領も北京五輪で8冠を達成した競泳のマイケル・フェルプス選手も、過去にマリフアナを吸ったことがあると告白した。

「世界は変わった」とカリフォルニア大学バークレー校のロバート・マックーン教授(法学・公共政策)は言う。「4年前にはこうした論争自体、想像できなかった」

 カリフォルニア州の住民は投票でどんな決断を下すだろうか。

by yupukeccha | 2010-05-10 12:49 | 北米・中南米  

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