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健康科学大 不祥事の足元

2009年12月15日 朝日新聞

■教育現場守る努力を

 富士山のふもと。山あいを縫うように、健康科学大学(富士河口湖町小立)の校舎が広がる。

 この広大な自然に囲まれた大学を舞台に、不正経理が浮上したのは今年4月。大学を運営する学校法人第一藍野学院が02年4月の開学認可申請の際、企業や個人から約50億円を集め、銀行の残高証明を文部科学省に提出した直後に全額を返還していた事実が明らかになった。

 あれから8カ月。今月8日、改めて大学を訪ね、作業療法学科に通う4年生の男子学生(22)から話を聴くことができた。

 「おばあちゃんみたいな人を救ってあげたい」

 男子学生が、作業療法士を目指そうと思ったのは、祖母の存在があったからだ。20代後半で脳の病に倒れ、亡くなるまでの間、約30年間、寝たきりの生活を余儀なくされた。「初期の段階でしっかりとしたリハビリができていたら、もう少し体が動いたかもしれない」。そんな話を耳にして、同大への進学を決めたという。

 この男子学生は来春から、県外の病院で実際に作業療法士として働く予定だ。不正経理問題に揺れる大学についてこう語った。

 「世間のイメージが悪くなってしまったが、しっかりとした目的意識を持った学生が多いこともわかってほしい」

 4月9日にあった同学院の謝罪会見。出席した牧野順四郎健康科学部長の言葉が印象に残った。「経営の問題と勉学は別。より良い授業を実現し大学が良くなるようにしていかなければならない」

 牧野部長は今でも、「優秀な人材を育てようと思ってやってきた。開学時に不正があった責任は取らなければならないが、大学の教育方針自体は間違っていない」と話す。

 元々、同大は富士河口湖町が誘致した。地域医療・福祉の担い手を育てるためだ。大学は国家試験対策のために課外授業を設けるなど、人材育成に力を入れてきた。国家試験の合格率は全国平均を大きく上回る。渡辺凱保町長は「地域のために多大な貢献をしてくれた」という。

 「健康科学大学を舞台に不正経理があったようだ」。知り合いからそんな話を聞いたのが昨年7月。以来、前任地の富士吉田支局時代を含め、取材を続けてきた。

 その中で書ききれていないことがある。足元で苦しむ、教育現場や学生たちの思いだ。確かに、文部科学省や地元自治体の目を欺いてきた同学院の社会的責任は重い。だが、教育現場まで同じに見られることは、真実ではないと感じてきた。

 多額の補助金返還、入学者数の減少――。不祥事を受けて大学は今、経営危機を迎えている。今後、文科省や県の処分も予想される。このまま大学経営が頓挫するようなことがあれば、一番の被害者は何の罪もない学生たちだ。関係者には、そのことを忘れないでほしい。(岡戸佑樹)

by yupukeccha | 2009-12-15 23:59 | 社会  

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