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威勢と浪費の「王都」 ミャンマー・ネピドーを歩く

権力者の意図 諸説飛ぶTraveling to Naypyidaw 2009
2009/07/08 朝日新聞

 ミャンマー(ビルマ)の軍事政権が3年前に遷都したネピドーには、巨大な仏塔や動物園などが完成し、来年の総選挙を見据えて大統領府や国会の建設も進む。だが国民生活が窮乏するなか、権力者の欲望を体現する「王都」づくりを「壮大な浪費」と批判する声は強い。携帯電話も使えない首都には、大使館を移す国すらない。(ネピドー<ミャンマー中部>=柴田直治)

威勢と浪費の「王都」 ミャンマー・ネピドーを歩く_b0161323_9193781.jpg動物園人まばら

 中心部から車で約30分。刑務所跡に建設された「ネピドー動物園」は週末でも人影がまばらだ。職員によると入場者は平日で約千人、週末でも2千~3千ほどという。

 唯一、人だかりができていたペンギン舎は灼熱の外気より温度が低く涼がとれる。12匹のペンギンをタイから輸入し、職員をバンコクに派遣して飼育法を学ばせた。もう一つの目玉のホワイトタイガーはゾウとの交換で獲得したが、残る25種のほとんどは旧首都ヤンゴンと第2の都市マンダレーの動物園から運んだ。

 23企業の協賛で07年9月に着工し、わずか半年で完成した。それぞれのオリに担当した企業の銘板が立つ。新首都建設には、軍幹部の取り巻き企業が多数参加。軍政は工事費支払いの代わりに、ヤンゴンの官庁跡地の払い下げや車の輸入権、木材の伐採権などを与えているとされる。

 隣のプラネタリウムは占星術に凝る軍政トップのタン・シュエ国家平和発展評議会議長が昨年8月、建設を指示。今年4月に開業した。総工費約40億円。軍政ナンバー2のマウン・エイ副議長の娘の会社が受注したという。

 日曜に訪れたが、160席には客は70人ほど。平日は10人足らずの日もあるといい、「開業以来あなたが初の外国人客」と言われた。なぜかビルマ語版の「お座敷小唄」が流れた後、国内観光地の紹介、天体や天文学の解説、海中生物のアニメが続いた。

 58人のスタッフは森林省の公務員。動物園に勤務していた30代の女性は3月に突然異動を告げられ、天文学を学ぶ日々だ。「娯楽施設もなく、他にすることもないのでちょうどいい」と苦笑いした。

 70人が同時に打てるゴルフ練習場、噴水公園なども相次いで完成したが、利用者はわずか。巨大な金塊や真珠、特大のヒスイ、オパールなど特産の宝石類や原石を展示した宝石博物館も開業した。主な展示品はやはりヤンゴンの博物館から運んできた。

威勢と浪費の「王都」 ミャンマー・ネピドーを歩く_b0161323_9201195.jpg朽ちるヤンゴン

 車がほとんど通らない道路を街灯が煌々と照らす。24時間の電気供給が自慢だ。一方60年代に独裁政権ができるまでアジア屈指の近代都市とされたヤンゴンは停電がひどくなり、1日6時間から18時間が当たり前。道路や公共施設も一向に補修されない。国民の7割が月100㌦(約9500円)以下で暮らすなか、資源は新首都に注がれ、他地域の窮乏に拍車がかかる。

 新首都の暮らしも楽ではない。公務員は移転当初のように役所に住み込む必要はなくなったが、家族をヤンゴンに残しての単身赴任が多い。帰省もバスなら片道5千チャット(実勢レートで約480円)。5万チャットほどの給与からすれば結構な出費だ。

 局長以上の幹部職員は、新首都での自宅建設を迫られるという。土地は安く売却されるが、上物には約400万円かかる。ある職員は「定年までわずか。余生はヤンゴンで暮らしたいのに」と嘆いた。

威勢と浪費の「王都」 ミャンマー・ネピドーを歩く_b0161323_9204351.jpg 近郊の丘で3月、ウパタサンティ・パゴダ(仏塔)が落慶した。最大都市ヤンゴンにある同国最大の聖地シュエダゴン・パゴダを模し、高さは約100㍍の本家より1フィート(約30㌢)だけ低い。

 建設費は、タン・シュエ議長の一族が寄付した。内部の施設には、起工式などに参加した議長らの写真が数多く展示されている。人であふれる本家と違い、警備兵の姿ばかりが目立つ。

古文書で移転?

 シュエダゴン・パゴダを改修した際に見つかった古文書に「都を中部に移せば国は栄える」とあったことから、軍政幹部が首都移転を思いついたとの説もある。

 新首都の建設は03年7月に開始した。軍政は「国の中央に位置し便利」と説明する。だが、世間では古文書説をはじめ、「占星術で決めた」「米軍空母からの攻撃に備えた」「反政府デモが起きない場所に」など諸説が流布する。

 遷都後も工事が続くが、官庁街、商業区域、居住地区などの地域割りに沿って多くの施設が立つ。公務員住宅は幹部用の戸建て、家族持ち用アパート、単身寮も完成。ホテルは7軒が開業。商業施設も派手な外観を見せる。

 各地区を結ぶのは4車線から8車線の道路。交通量は極端に少なく、「戦時には戦闘機などの滑走路としての使用を想定している」(外国筋)との説が真実味を帯びる。

 北朝鮮の協力で地下トンネル網が張り巡らされているとの報道が相次ぐ。軍施設や幹部宅の集まる北東部には近づけず、真偽は不明だが、軍事優先の街づくりが進んでいることは確かなようだ。軍政がアンテナを立てないため携帯電話も使えない。情報漏れを防ぎ、幹部らの安全を確保するためと言われている。

 3月の国軍記念日に兵士らがパレードをする軍事地区の広場には、パガン王朝時代の3人の王の巨像が並ぶ。ネピドーとは「王の住む都」を意味する。行進する隊列を閲兵するタン・シュエ議長は、さながら現代の王だ。

 軍政幹部は外国要人と面会する際、必ず「王都」に呼ぶ。潘基文・国連事務総長も4日まで訪れた。だが、友好国の中国を含め、大使館をヤンゴンから新首都に移転させる以降を示した国はまだない。次の治世でも新首都であり続けるかどうか見極めがつかないからだろう。

威勢と浪費の「王都」 ミャンマー・ネピドーを歩く_b0161323_9224624.jpgネピドー ヤンゴンの北約320㌔、サトウキビとタケノコの産地だった乾燥地帯の丘陵約80㌔四方を切り開いて建設された。05年11月に移転開始、06年2月に正式に首都とした。39省庁が移り、役人を中心に約20万人が住むとされる。今年3月にヤンゴンとの間で高速道路が一部開通し、所要時間は10時間から4時間に短縮された。

by yupukeccha | 2009-07-08 06:00 | アジア・大洋州  

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