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次世代パソコン 計画をゼロから立て直せ

2009年12月3日 朝日新聞
中村維男ただお 米スタンフォード大客員教授(計算機科学)

 スーパーコンピューターが科学技術や産業にとって重要なことは論をまたない。世界一の次世代スパコンを1台作るという国策は悪くない。だが、米国を拠点に約30年間計算機科学を研究してきた目で見ると、今の日本のやり方には大きな問題点がある。なにより、大規模で複雑なシステムを構築するための計画性や設計思想に問題がある。

 「計算速度毎秒1京(1兆の1万倍)回、2012年完成」の目標は、従来技術の延長線上で部品をたくさんつなぐやり方でも達成できるだろう。だが、消費電力もコストもふくれあがる。計算速度、省エネ性、コストのすべてを飛躍的に高める革新的な哲学があるなら巨額の国費を投じる価値はあるが、今の設計には従来のコンセプトを超えるものはみあたらない。力ずくの物量作戦でハードを作るのみである。

 もし計画通り「毎秒1京回」が達成できても、おそらく世界一にはなれない。現在最速の米クレイ社製の計算速度は毎秒0.176京回。2位のIBMも本気でやっている。スパコン界は日進月歩なので、12年には1京回以上の機種が多数存在しているだろう。米国はすでに「毎秒100京回」級の開発に動いている。

 このプロジェクトは、目標を達成するための「構え」をきちんと作らず、走りながら考えようとした感がある。当初は、富士通方式と、NECと日立製作所の方式を単につないだ、「複合システム」を打ち出した。ところが、NECと日立は5月、経済悪化を理由に開発から撤退した。複合システムに本物の価値があったなら撤退はしないはずだ。ここで予算が凍結されると、今度は富士通の経営危機を招きかねない。

 この規模のスパコンだと、ハードとソフトを同時並行で開発し、互いに最適化する「強調設計」をうまくやらないと、性能を最大限に引き出せない。だが、現在進行中のプロジェクトに、強調設計をきちんとできる余裕があるとは到底思えない。米国発の既存技術をもとに、物量作戦で世界最速をめざすとしても、何らかの技術的飛躍がほしい。

 文部科学省や理化学研究所は「専門家の評価を受けている」と言うが、日本の科学者集団はムラ社会的ななれあい体質が強い。おかしいと気づいても、思い切ったことが言えない。立場やしがらみを超えて生産的な討論を尽くす真の「まじめさ」がないと国際競争には勝てない。ちなみに、中国は毎年多数のコンピューター人材を育成し、11月発表のスパコンランキングで過去最高の5位に入った。今後まだまだ伸びる。

 スパコンの国際競争で日本はすでに負けている。しかし、スパコン開発を止めるべきではない。世界一を奪還するには、コンピューターの基礎の基礎まで立ち返って、飛躍的に性能を高める「新しい設計の哲学」を磨くしかない。事業仕分けを機にすなおに課題を見つめ、国内メーカーを育てつつ、真の実力をゼロから再構築してほしい。
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by yupukeccha | 2009-12-03 06:00 | 社会