歓迎、中国の中間所得層 ビザ緩和で「観光客10倍」予測

2010年7月2日2時4分 朝日新聞

 政府は1日から、中国人観光客を受け入れる条件を大幅に緩めた。お金持ちに限っていた個人向けの査証(ビザ)の発給が中間所得層にまで広がった。その対象は、これまでの10倍の1600万世帯。日本の全世帯の3分の1近い規模だ。日本の観光地や商店は彼らの旺盛な消費欲に期待を募らせる。

■対象1600万世帯、観光庁長官がセールス

 中国人の個人観光ビザの発給は昨年7月から始まり、年収25万元(約340万円)以上が条件の一つだった。新しい条件は、官公庁や大企業などに勤めていて、年収6万元(約80万円)以上かクレジットカードのゴールドカードを持っていること。誰か一人が条件を満たせば家族にも発給する。

 ビザを出す地域は内陸にも拡大。そのうちの一つ、瀋陽に1日、溝畑宏・観光庁長官がトップセールスに乗り込んだ。地元のほか北京、西安、武漢、昆明など全国から70人余を集めた記者会見で、「日本企業とも連携し、日本観光の魅力を中国全土のみなさまにアピールしていきたい」と強調。中国語表記や宿泊先で見られる中国語番組を増やすことを約束した。

 ビザ申請を仲介できる中国の旅行会社も48社から290社に増える。

 今回の緩和で対象となる1600万世帯は企業経営者や株や不動産でもうけた大金持ちだけではなく、高給の企業や官庁への「勤め人」夫婦などが主体になる。だが、数億世帯を抱える中国にとっては一握り。さらなる増加の余地は大きく、「日本への観光客は近く10倍になる」(南方都市報)との予測もある。

 日本観光の狙いはさまざまだ。瀋陽の旅行会社幹部は「日本旅行の人気スポットは温泉。ディズニーランドや富士山も人気が高い。化粧品や電化製品などの買い物も魅力だ。映画のロケ地、北海道の引き合いも多い」と話す。日本の医療への信頼から人間ドックツアーも始まった。

 中国の渡航者は経済成長に連れて、この10年で約5倍に急増。日本は香港、マカオを除けば最も人気のある目的地だ。理由の一つには、靖国神社への参拝などで中国から反発を招いた小泉純一郎首相の退任以降、日中関係が徐々に改善してきた点もある。

 瀋陽市内の男性会社員(43)は「親を連れて日本に行きたい。日本が中国人の地位を認めてくれたことに誇りを感じる」と今回の緩和を歓迎した。反日感情が根強い中国だが、ネット上では、日本を旅行した人々が「日本人は礼儀正しくまじめ」「歴史遺産と近代化が調和して美しい」などと発言している。

■百貨店に好機、無料お届けも

 観光庁は、今年の中国大陸からの団体・個人旅行客が、昨年より8割多い180万人まで増えると予想する。待ち構えるのは旅行業界や小売業界だ。

 全日本空輸は1日からインターネットの自社のサイトで中国語の表示を始め、中国・人民元で航空券を購入できるようにした。プリンスホテルは1日から都内の3ホテル全室で、中国語の放送が視聴できるようにした。

 旅行会社エイチ・アイ・エス傘下で再建中のハウステンボス(長崎県佐世保市)は、買い物目的の中国人を取り込もうと園内にアウトレットの商業施設を2011年度にも開く。京都市では今年3月、JR京都駅の駅ビル9階にあった外国人向けの観光案内所を2階に移し、中国語を話せるスタッフ1人を常駐させた。

 不振が続く小売業界にとっても貴重なチャンス。百貨店の日本橋高島屋(東京)は近くの高級ホテルと組み、買い物時に通訳をつけ、品物を部屋まで届ける無料サービスを6月25日から始めた。

 中国の家電量販大手傘下に入ったラオックスでは、店内に「歓迎光臨」(ようこそ)を掲げ、中国人向けの売り場づくりを強化。ビックカメラは、中国人向けに2月から割引券を発行している。

■中国のカード使える店が増加

 中国人観光客が多く利用する決済用の「銀聯カード」が使える店舗も増えている。提携する三井住友カードによると、加盟店は5月末で約1万7800店で、飲食店やホテルなどで増加が見込まれる。

 三菱総合研究所のまとめでは、中国人観光客が日本で消費する金額は1回あたり約13万円。外国為替市場で元の通貨価値が上昇すれば、使われる金額がさらに増える可能性もある。ただ、経済効果については「旅行者の買い物はあくまで1回限り。内需を支える効果は限定的」(幕亮二・主任研究員)と控えめだ。

 小売りの現場でも、ビザの拡大対象となった中間層の購買力を疑問視する声がある。大手百貨店幹部は「いままでの富裕層は日本人以上に買い物をしていたが、今後増える観光客が同じとは限らない」と漏らす。(西村大輔=瀋陽、澄川卓也)
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by yupukeccha | 2010-07-02 02:04 | 社会  

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