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神社に詣でる若者たち

2010年6月12日 朝日新聞

 初詣ででもないのに、神社に参拝する若者が増えている。「婚活」やアニメ、パワースポットブームが後押しをしているようだ。都市化と過疎化が進み、存亡の危機とまでいわれた神社が、息を吹き返すきっかけになるのか。(坂本哲史)

婚活・アニメ・パワー…

 東京・飯田橋駅から徒歩5分。ビルのはざまに立つ東京大神宮は、鎮守の森もこじんまりとしている。

 平日午後、雨がぱらつく空模様にもかかわらず、若い女性が続々とやってくる。茶髪にパンダメークの今どき女子もいれば、飾り気のないOL風もいるが、みんな判で押したように鳥居の前で一礼し、手水舎(ちょうずや)で手口をすすいでから参拝する。拝殿前で何を祈っているかは聞くまでもない。良縁に恵まれますように――そうここは女性誌などで「縁結びのパワースポット」として紹介される神社なのだ。

 参拝客の多さに圧倒されていると、はかま姿の禰宜、唐松義行さんに笑われた。「今日は仏滅ですから少ない方ですよ。大安に参拝し、婚活を始める女性が多い。敷地の外まで行列ができることも」

 同神宮は明治維新後、東京で伊勢参りができる神社として建立され、神前結婚式を創始としたことで知られる。縁結びの御利益のある神社として参拝者は徐々に増えていたが、「婚活」が流行語になった2008年秋、「NHKを含むほぼすべての在京テレビ局」から取材を受け、「婚活神社」としてブレークした。

 テレビ番組で同神宮を参拝した女優の宮﨑あおいさんが後に、ここで挙式したことも追い風になった。

 「良縁に恵まれれば、結婚式も同じ神社でというのは自然な流れ。お子さんが生まれた後のお宮参りや七五三、厄よけまで末永くおつきあいいただければ」と、唐松さん。

 婚活女子の神頼みは東京だけの現象ではない。境内をハートで埋め尽くした恋木神社(福岡)や恋占いの石が置かれた地主神社(京都)など、メディアの常連となった縁結び神社、婚活神社は全国各地に広がっている。

 一方、結婚よりアニメのキャラクターに萌(も)えるオタク男性の間で、聖地になった神社もある。埼玉県久喜市の鷲宮神社は、07年に放映されたアニメ「らき☆すた」に登場した鷹宮神社のモデルと紹介されたことをきっかけに人気爆発。正月三が日の参拝者数は07年の13万人から、今年は45万人にまで膨れあがった。

 アニメやゲームには神社がよく登場する。モデルとなった神社には、ファンが押し寄せる。ゲーム「ひぐらしのなく頃に」の白川八幡神社(岐阜県白川村)、アニメ「かんなぎ」の鼻節神社(宮城県七ケ浜町)など、「痛絵馬(いたえま)」と呼ばれる萌えキャラのイラスト入り絵馬であふれかえった神社が続出している。

 婚活ともアニメとも無関係に人気の神社もある。神社の中の神社ともいえる伊勢神宮だ。500万~600万人台だった同神宮への参拝者は07年に700万人を超え、昨年は800万人台に迫った。

 20年度に1度、社殿をすべて造りかえる式年遷宮の年に参拝者が増えるのはいつものことだが、次の遷宮は13年。1973年や93年に記録した800万人台を大きく更新し、3年後には1200万人を超えるという試算もある。

 神宮司庁の小堀邦夫広報室長によると、国家の安泰を祈願する神宮は、現世利益をうたっておらず、おみくじもない。だが、神宮人気を支えるのは20~30代の若者たちだ。

 「テレビや雑誌でパワースポット特集があるたび、必ずといっていいほど神宮が取り上げられる影響ですよ。とりあえず伊勢神宮の名を挙げておけば、どこからも文句は出ませんから」

偏った情報のブーム

 パワースポットという言葉を広めたのは、「スピリチュアルカウンセラー」の肩書でテレビに出演する江原啓之さんだといわれる。最近なら、手相占い芸人として活躍する島田秀平さんだ。今年初め、東京都渋谷区の明治神宮の清正井(きよまさいど)が、パワースポットとして注目を浴びたのは、島田さんの発言がきっかけだった。

 国学院大神道文化学部の石井研士教授(宗教学)は『テレビと宗教』などの著書で、日常における宗教意識が希薄になる一方、心霊番組などを垂れ流すテレビが宗教心にかなりの影響を及ぼしていることに、警鐘を鳴らしてきた。若者たちの神社ブームについても、「メディアで流通する断片的で偏った情報の結果ではないか」と冷静だ。

 伝統的に神社は地域共同体を基盤に成立してきた。「都市化や過疎化の進行で、神社を支える社会構造は大きく変容してしまった。今回の若者による『ディスカバー神社』ともいうべき現象も、バラエティー番組などの影響を受けたもので、従来の神社神道のあり方とは、かなり異なっている」

 正月三が日の神社・仏閣への人出は昨年、9939万人と過去最高を記録した。警察庁が統計をまとめるのをやめたため、今年については比較できるデータがないが、全国8万社を包括する神社本庁によると、増加傾向は続いているという。ただし、「三が日を通し参拝者が数百人にとどまる小さな神社の割合も増えている」(広報センター)。

 東京都港区にある赤坂氷川神社の禰宜、恵川義浩さんは2年前、週刊誌の取材を受けた。記事のタイトルは「日本の『神社』 存亡の危機」。氏子の減少と後継者不足で神社の運営が困難になっていることを伝える内容だった。

 パワースポットブームで、赤坂氷川神社への参拝者も増えている。だが、恵川さんは「5円、10円のおさい銭いただいても、社殿の維持費や修復費はまかなえません」。

 同神社は都心で珍しく、不動産業に手を出さないで、1万ヘクタールを超える鎮守の森を維持してきた。力を入れるのは結婚式。披露宴会場として紹介できるレストランなどの情報を整えて、10年前には年間数組に過ぎなかった結婚式を約200組にまで増やした。

 この6月からは、婚活神社の仲間入りをはたすべく月に1度の良縁祈願祭(初穂料3千円~)を始める。

 恵川さんの認識は2年前と変わっていない。

 「民間企業に勤めた経験があるので、それが役立っています。経営感覚がなければ神社は生き残れない」

by yupukeccha | 2010-06-12 15:00 | 社会  

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