<タイ>騒乱収束から1カ月、社会の亀裂深刻 真相究明困難

6月18日20時57分配信 毎日新聞

 【バンコク西尾英之】タイのタクシン元首相派組織「反独裁民主戦線」(UDD)によるバンコク都心部占拠が、軍の強制排除で終結して19日で、1カ月を迎える。タクシン派と政府の衝突は「都市部」対「農村部」、「既存の支配勢力」対「新興勢力」といったタイ社会の分断の深刻さを改めて浮き彫りにした。アピシット首相は対立解消へ向けた5項目の「国民和解策」を推進すると強調するが、小手先の和解策で根本的な対立を解消するのは困難な情勢だ。

 2カ月以上に及んだタクシン派による都心部占拠では、軍とタクシン派支持者の衝突で計89人が死亡した。うち兵士・警官は11人で、残る78人は民間人。タクシン派は当時「首相が市民を虐殺している」と非難、占拠地域には首相を吸血鬼になぞらえたポスターを大量に張った。

 首相が国民和解策の中に「衝突の真相究明」を盛り込んだのは、首相への憎しみを深めるタクシン支持の国民に、死者が出た状況を政府自ら明らかにして、理解を得る必要があると判断したためとみられる。

 しかし、政府は「究明」前から一連の責任を次々に否定している。焦点となっている、タクシン派の緊急避難場所に指定された寺院内で医療関係者ら6人が射殺された事件について、治安維持責任者ステープ副首相は「兵士は当時付近にいなかった」と主張。タクシン派内の過激派カティヤ陸軍少将が狙撃され死亡した事件についても軍は関与を否定している。政府は今月に入り「独立調査委員会」のトップに司法関係者を任命したが、「真相が完全に明らかにされることはない」との見方も根強い。

 ◇「年内総選挙」 約束後退

 アピシット首相は、タクシン派が占拠を解除する交換条件として一度は今年11月の総選挙実施を約束した。だがタクシン派が解除に応じなかったため撤回、強制排除後は「年内の総選挙実施は困難」との立場を繰り返している。

 一方でタクシン元首相やタクシン派幹部にテロ容疑で逮捕状を用意した。総選挙をすれば北部や東北部の農民層の強い支持を得るタクシン派が依然有利。任期中の来年末までの総選挙に備え、最高刑が死刑となるテロ容疑で元首相らの再起の芽を摘み取りたい狙いとみられる。

 タイには相続税がなく、富裕層と貧困層を固定化させてきた。アピシット政権は昨年、導入に前向きな姿勢を示したが、今年に入りトーンダウン。「暗殺の対象になりかねない」(外交筋)というほどの富裕層の反発があった。首相は今後、和解策の具体的内容を検討していくが、二分化された社会の双方を納得させるのは極めて困難だ。

 ◇経済回復に「数年」

 タクシン派が占拠していたバンコク都心部では、過激派の放火で被害を受けた大規模ショッピングセンターや映画館などを除くすべての商店やホテルが営業を再開。ショッピングセンター内で被害を免れた日本のデパート伊勢丹支店も24日から2カ月半ぶりに営業を再開すると発表し、占拠前のにぎわいを取り戻しつつある。

 ほとんど絶えていた外国人観光客の姿も戻り始め、政府観光庁は今月、「今年全体の外国人観光客は昨年を上回る見通しだ」と発表した。しかし都心部のレストラン経営者は「市街戦のような姿が世界に放送された。この影響を脱するには数年はかかる」と話した。
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by yupukeccha | 2010-06-18 20:57 | アジア・大洋州  

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