競争激化の大都市ではもう勝負できない?中国農村部に流れ込み始めた企業の“目算”

2010/6/9 06:15 ダイヤモンドオンライン

「富めるものから先に富め」というトウ小平の言葉で有名な南巡講話(1992年)以来、約20年が経った。その言葉が象徴するように、中国は今や米国に次ぐ世界第2位の経済大国に躍り出ようとしている。

 だが、改革開放の旗頭として発展を続けてきた上海、北京、深センなどの都市部とは異なり、ある意味置き去りにされてきたイメージが強いのが、中国の「農村部」だ。その状況は、直近も変わることがない。

 これまで中国の農村部の人たちは、収入格差、戸籍問題などにより、都市部とは比べ物にならないほど不利な環境下での生活を余儀なくされてきた。

 ところが、ここにきて風向きが少し変わり始めている。農村部の経済が、これまでになく賑わっているのだ。その背景には、グローバル金融危機からの早期回復を目指して、中国政府が2009年に導入した「家電下郷」や「汽車下郷」といった農村部の住民に限定した補助金制度の影響もある。

 これまでカネを稼ぐために、仕方なく都市部へ出稼ぎに来ていた農村部の工場労働者たちも、景気のよくなった農村部に帰り、出稼ぎには出てこなくなった。そのため、都市部の工場は人手不足になっているという。

 このようなトレンドからもわかる通り、中国ではいよいよこれから「農村の時代」が始まろうとしている。

 中国における農村部の人口は、国全体の半分以上となる7億人を占める。つまり、13億人という膨大な消費ニーズに魅了されて中国に進出する日系企業は、「農村を攻略せずして中国市場を狙うことはできない」ということだ。

 確かに現時点では、都市部と農村部の経済格差はまだまだ大きい。たとえば、09年の農村部の平均年収は5.153元と、都市部の平均年収 17.175元の3割に過ぎない。しかし逆に考えれば、農村にはそれだけ「潜在的成長力」があるとも言えるだろう。

 もう1つ、ビジネス戦略上「農村」が重要となる理由がある。農村部は、都市部と比べて競争が緩いからだ。

 これまで中国市場と言えば、上海、北京、深センといった経済発展の先端をいく沿岸都市部を指すのが当たり前だった。ただし、誰の目から見ても魅力的な都市部市場は、競争が厳しくなる一方だ。有望市場に魅せられたグローバルプレイヤーだけでなく、地の利を生かした中国ローカルプレーヤーまでもが、黙っていても次から次へと参入してくるからだ。

 都市部で起こるこういったビジネス競争は、もう10年も前から続いており、ある程度勢力図ができ上がっている業界も少なくない。そういう業界では、大手の既存プレーヤー数社が「生き残り」を賭けた大規模な戦いを繰り広げるフェーズにあり、今から日本企業が参入しようとしても入り込む隙間はない。

かつて共産党も農村から成功した? 農村部に流れ込む企業の“あの手この手”

 そこで、日本企業が中国市場を狙う場合に参考になるかもしれないのが、かつて中国共産党が取った「先に農村を狙う」戦略である。

 蒋介石率いる国民党に対して劣勢だった共産党が、あえて都市部を捨てて農村部を先に取り込み、その後十分体制を整えてから都市部を狙ったという作戦だ。今から中国市場に進出する日本企業は、あえて勝率の少ない都市部を狙うのではなく、まず農村を狙うという作戦もあるのではないだろうか。

 実際のビジネスでも、「農村を狙う」動きが出始めている。

 先の「家電下郷」という中国政府の政策に応じて、家電大手のパナソニック、シャープ、サムソンなどが農村市場開拓を本格化し、販売・アフターサービスの拠点を増やしている。

 またPCメーカーのレノボやHPも、農村部へリーチを積極的に増やす戦略を取っている。たとえばHPは、中国の1000万都市にPC販売店舗を広げる方針を発表している。

 さらに、金融事業の農村進出も始まっている。農業の機械化や農村の消費拡大などで急増する農村部の資金ニーズに対応するため、香港のHSBC銀行、サンタンデル銀行(スペイン)が、中国の銀行と共同で農村部のマイクロファイナンス事業を始めている。

 この中国の農村を狙う戦いは、リアルの流通チャネル上だけではなく、ネットの世界でも起こっている。たとえば、中国SNSの4大プレイヤーの1つである51.comは、人人網、開心網といった競合が都市部の学生やホワイトカラーをターゲットにしているのに対して、農村部の若者をターゲットにして差別化を図っている。

低い単価をお客の量で補う! 農村部でも好調なネットビジネス

 2010年4月にChina Internet Network Information Centerが発表した「2009年中国農村インターネット発展状況調査報告」で、中国農村部のネット利用状況の調査結果が出ている。

 まず、インターネットの普及率は都市部が44.6%になっているのに対して、農村部ではまだ15%程度(ちなみに日本のネット普及率は75%以上と言われている)。ただし、それでも農村部のインターネット利用者は09年末で1億人(昨年比26.3%増加)を超えており、ボリュームとしては、すでに日本を超えている。

 また、農村部のインターネット利用者の69.2%は30歳未満で、41.1%が20歳未満。つまり、農村インターネット利用者のうち学生が大きなシェアを占めるということだろう。

 収入で見ると、月収も1.000元以下が65.4%を占める(500元以下は36.9%)。農村部のネットユーザーの可処分所得は、まだかなり低い水準と言える。しかしながら、iResearchが09年7月に行なった調査によれば、SNSで有料サービスを利用する金額は、10元以下が49.5%、10~20元が22.5%、20~30元が12.8%となっている。

 このくらいの金額であれば、500元の月収の人でも有料ネットビジネスを利用できるということだろう。農村部のネットビジネスの場合には、低い客単価のサービスを、客の量(ボリューム)で補うことになるのだろう。

大都市幻想はもう古い? 農村を制するものが中国を制す

 また農村では、モバイルネットユーザーが多いのも特徴だ。中国の携帯ネット接続者は、2.33億人。そのうち7189万人が農村の携帯ネットユーザーだ。農村ネットユーザーの67.3%が携帯ネット接続を行なっている。

 農村携帯ネットユーザーのうち、30歳以下は76.2%、10~19歳は43.2%。平均ネット使用率が18.7時間。チャットや音楽のダウンロード、モバイルネットで言えば、09年から本格的に導入された3Gも追い風となるだろう。

 09年末の3G携帯加入者数は、中国全土で1500万人と言われている。7億の携帯ユーザー総数から見ればまだまだ極わずかだが、2010年末には6000万人に増えると言われている。

 中国農村部でも、特に若い人をターゲットにしたネットビジネスなら、今でも成立する。しかも若い人が30代、40代になる10年後、20年後の潜在市場はかなり大きい。

 そして、この農村市場でシェアを取るためには、10年後ではなくまさに「今」先駆者として攻めていかなければならないだろう。リスクを避けて、農村市場が顕在化するまで待っていたら、参入に遅れてしまい、多くの先行する競合プレイヤーとの不利な戦いをしいられるからだ。

 これからは、「農村を制するものが中国を制す」と言われるようなフェーズに突入するのかもしれない。
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by yupukeccha | 2010-06-09 06:15 | アジア・大洋州  

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