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「中国炎上地図」まで掲載しちゃう“政府系”新聞サイト

2010年05月14日 11時00分 ITmedia +D PC USER 山谷剛史の「アジアン・アイティー」
国家主席直々の指導でネット世論の動静に敏感な中国当局。その分析に積極的な「人民日報」のWebページに「え、これ大丈夫?」な調査結果が公開されている。

書いて書いても消される「チベット」ネタを政府系サイトで読む

 2010年4月12日に中国で発生した青海省の大地震に関するニュースは多くの海外メディアでも取り上げられたが、その情報ソースとして、多くの中国人が海外メディアに取材された。広東省広州で貿易業を営む中国人「揚恒均」氏もその中の1人だ。

 青海省にはチベット族自治州が存在し、今回の大地震でチベット族も大きな被害を受けている。それに関連したいろいろな問題が日本でも紹介されたが、複雑な事情が絡んでいるため、海外の取材陣にはなかなか理解が難しいらしい。米国メディアから2回、豪メディアから1回取材された楊氏は、海外の報道陣に知られていないチベット族自治州の問題を自分のブログで解説した。

 しかし、中国政府当局にとってデリケートなチベット問題に触れていたためか、この記事は即座に削除されたという。楊氏は削除されても記事をアップしなおしているが、それでもすぐに削除されてしまう。その繰り返しに嫌気が差した楊氏は「海外のTwitterをよく利用するようになった」と述べている。

 このように、書いた本人がいやになるほどしつこく当局が削除しつづけた“チベット問題解説記事”だが、そのブログ記事を、簡単に探し出せる“政府系サイト”が中国に存在する。政府系新聞として知られる「人民日報」のWebページ「人民網」に設けられた「輿情頻道」チャンネルに、当局が必死になって削除しつづけたブログ記事がピックアップされていたりする。ええっ、なぜ?

 「輿情」(「ユィーチン」と発音する)とは世論を指すが、意味が転じてインターネット上で作られる世論(中国語で「網絡輿情」という)を表す言葉として使われている。インターネットで盛り上がる「ネット世論」に中国政府が本格的に注目し始めたのは2008年6月からと“公式”には認識されている。この月に、胡錦涛国家主席が人民日報社を訪れ、「インターネットで形成される“ネット世論”を注視せよ」と“指導”したことから中国政府でも重要視されるようになった。

 このときに胡錦涛国家主席が述べた「互聯網已成為思想文化信息的集散地和社会輿論的放大器」(すでに、インターネットは思想文化情報の集積地となっており、社会興論を加速させるツールになっている)は、関係部署で標語となって文字通り掲げられている。

暴動隠蔽から炎上地図まで、あらゆるものが集計されている

 2008年から本格化したネット世論に関する研究や動静把握は、人民日報社が運営するWebサイトにある「人民報」が最も活発だが、多くの企業や大学でも研究が進んでおり、ネット世論を扱う専門誌(タイトルは「網絡輿情」とそのまんま)まで発行されている。

 人民網の「輿情頻道」ページでは、現在中国で書き込まれているスレッドの閲覧数、コメントの数、転載数などが、タイトルやキーワード別にカウントされ、1日、1週間、1カ月の単位で集計したランキングを掲載されている。「上海万博テーマ曲の盗作疑惑」「Google中国の撤退」「食用油の廃油再生疑惑」など日本で報道されたニュースも当然マークされている。暴動関連など当局が隠蔽したそうな事件も並ぶのは興味深いところだ。

 さらに、輿情頻道では、こうした事件に対して中国の各メディアがどのような報道をしたのかもリポートされている。過去の記事も集積されているので、過去にあった事件でメディアやインターネットユーザーがどのような反応を見せたのかも簡単に把握できるのは、中国では、ある意味“ものすごい”ことだ。

 重大事件に反応したネット世論を細かく分析し、その結果を項目に分けて分かりやすく紹介しているのも輿情頻道の特徴だ。汚職事件や暴動が発生したときに、当局や当事者がどのように反応して対策を実施したかを、「政府の反応」「情報の透明性」「政府の信頼」「役人への処分」「動態反応」「ネットのテクノロジー」という視点から分析して点数化している。事件によっては、掲示板やブログでの意見でポジティブなものが多いのか、ネガティブなものが多いのかも集計している。

 政治的でない話題についても同様に、「ブログ注目度」「掲示板注目度」「大学掲示板注目度」「アップされた動画数」「チャットソフト“QQ”グループでの注目数」を点数化してランキングにするだけでなく、省別に調べた「炎上書き込み発生件数」マップまで掲載している。

 人民網では、このような分析に基づく点数で、四半期や上半期ごとに「ネット世論に対する政府対応の適切度」ランキングもまとめている。人民網の分析で「最悪のネット世論誘導」のケースとして評価されているのが、2010年1月に貴州省安順市で、警察官が一般人2名を銃殺した事件を地元政府が隠蔽しようとした事例と、2010年3月に山西省で、ワクチン接種が原因で100人近くの児童が死亡、もしくは後遺症が残った事件で、山西省政府が問題のワクチンについて「品質に問題なし」と発表した事例だ。人民網はこれらの事例の影響として、「地元政府が情報を公開しようとしなかったことから、政府への信任が揺らいだ」と分析している。

 一方で、2010年3月に四川省巴中市白廟郷の郷政府が、接待の食事代から日本円にして20円程度の紙代にいたる支出明細をインターネットで公開した事例を取り上げ、「地方政府をガラス張りにした初めての例」として多くのインターネットユーザーから支持されたことを「いいネット世論誘導」と評価している。また、暴動事件をきっかけに地元政府幹部が「微博」(中国のミニブログ)を公開してインターネット上で市民と交流した事例や、地方政府高官が自分で行った汚職や権力乱用をブログで告白して逮捕された事件も高く評価されている。どうも、人民網の分析で高いポイントを得るキーワードは「情報公開」のようだ。

 ただ、今回紹介したような、ネット世論を分析した結果の公開について、筆者が取材した中国人で知る人はいなかった。取り上げるブログや掲示板のスレッドもほとんどない。念のため、「輿情」(ネット世論)で検索すると、中国で微妙な単語を検索したときに表示される「検索結果は法律法規により一部しか表示されない」という注意書きが出てこないので、中国では、“本当に”知られていないと考えてよさそうだ。

公式見解は「もっとインターネットを使おう」だが

 まともな方法では中国からTwitterやFacebook、YouTubeが利用できない事情について、この連載でも「Twitterが使えない中国からフォローされたでござる、の巻」で紹介したが、日本のWebサービスも無縁ではなく、中国語版もリリースされている「FC2ブログ」に中国からアクセスできなくなる現象が発生している。

 こうしたアクセス管理を見ると、「国民にインターネットを利用させたくないのが中国政府の真意では?」と考えてしまうが、報告書では異なる意見を表明している。CNNIC(China Internet Network Information Center)が2010年4月に発表した「2009年中国農村互聯網発展状況調査報告」(農村部におけるインターネット利用状況の統計報告書)のまとめで、「農村で誰でもインターネットを利用できるように、データ通信回線や公共のネットカフェなど、ネットワークインフラを強化すべし」「インターネットを使っていないユーザーにその存在を認識させ、農村のインターネットユーザーには、娯楽以外の価値を伝えるべし」「学校でインターネット教育を強化し、すべての学生がインターネットを利用できるようにすべし」「電子政府や村の商品を販売するビジネスプラットフォームを構築すべし」と主張している。

 しかし、中国では、以前から世界各地の存在する反中国的なメディアにはアクセスできなかったが、最近になって一般向けに提供されるインターネットサービスは、「国外サイトはアクセスできず、国内サイトは書き込みの一部が消される」というようにユーザーから閉ざされつつある。5月4日には、国務院新聞弁公室がネット実名制を推進する可能性を示唆している。具体的にはネット実名制の第一段階として、ネット世論が作られやすいニュース記事の感想欄で書き込みを実名制にすることを考えているようだ。ニュースの感想欄を利用するには、事前に身分証明書番号と名前などを登録することになるという。ネット実名制が実現すると体制への反対意見がいいにくい、ないしは、反対意見がコメントで盛り上がることなく消えていくことになるかもしれない。

 その一方で、政府はインターネットユーザーからの信頼を回復すべく、政府の情報公開や、Webページで利用できる政府サービスの導入に積極的だ。中国政府としては、海外のインターネットサービスはアクセスできないようにし、ネット世論を自分たちの好ましい方向にコントロールしつつ、中国独自のインターネットサービスを発展させたいようだ。

by yupukeccha | 2010-05-14 11:00 | アジア・大洋州  

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